孫子兵法

孫子兵法

「孫子」十三篇の理論体系を学ぶ意義

  古典理解(解釈)の便法として、いわゆる「断章取義」なる言葉がある。

 即ち、「より良く生きるためには古典をひもとき、先人の到達した英知に学ばなければならないが、古典そのものをその全体において把握することは、当世、わずらわしくもあり必ずしも得策ではない。むしろ、先人の教えの本質を汲み取り、現状(当世)に合わせて活用していくことこそ大事なのであるとし、古典の文章の片言隻句(金言名句)を断じ取って、その意義を当世風に解釈して用いる」ことを言うものである。

 この場合、古典の性格が聖人の言行録や箴言集、あるいは詩句集の類であれば(特に事の後先、物の順序は問題とならないため)「断章取義」は極めて有効、適切な方法となる。

 然りながら、物事には必ず両面性があるため、それを用いる対象によっては、返って両刃の剣となる場合がある。

 とりわけ「いかに勝つか」を目的とする兵書「孫子」の場合、各篇は、それ自身において独立した一篇として存在しつつも十三篇全体においては相互の有機的関係によって、あたかも「常山の蛇」<第十一篇 九地>のごとく首尾一貫して連動する理論的体系を有するものである。

 即ち、〈第一篇計〉、〈第二篇作戦〉、〈第三篇謀攻〉の三篇が「首(頭)」となり、〈第十三篇用間〉が「尾」、残りの 〈第四篇形〉から〈第十二篇火攻〉までの九篇が「中身(胴体)」を成すものであり、その全篇は微妙に「首・中身・尾」相応ずるように構成されているのである。

 斯る特色を具備する「孫子」に対し一律に「断章取義」を以て臨むことが如何に的外れであるか論ずるまでもなく、むしろその傾向が強まれば強まる程、増々、「孫子」理解の中心点は見失われ、堂々巡りの悪循環に陥ることは蓋し当然のことである。

 

 尤も斯る傾向は一人今日のみならず、いつの時代にもあったことであり、例えば「吾れ、兵書・戦策を観ること多きも、孫武の著す所は深し」と、「孫子」への深い傾倒ぶりで知られる「三国志」の英雄、魏の曹操が、その「孫子序」の末尾で「訓説・況文煩富にして、世に行わるる者は、其の旨要を失えり」と記すがごとしである。

 曹操のこの慨嘆と「孫子」への深い思い入れとが相侯つて、世に有名ないわゆる「魏武註孫子」が結実し、これをひろく世に伝えたため、今日、我々も「孫子」十三篇を目にすることができるのである。

 そこに秘められた曹操の真意は次のごとくであったと解される。

 

 即ち「孫子」十三篇こそまさに兵書中の兵書とも称すべき価値あるものであり、その深遠にして広大、かつ理路整然とした体系と思想には汲めども尽きぬ深さがある。
 然るに、世上に流布されている孫子解説本の多くは、ほとんどその中心・本質を見失っており、言わずもがな註釈や、金言名句にかこつけてする例え話めいた枝葉末節のものばかりで、誠に嘆かわしい限りである(つまりは、断章取義の横行を言う)。

 このようなものを百万遍読んでも、「孫子」理解に関しては百害あって一利なしであり読めば読むほど、益々、「孫子」の奥義は遠のくばかりである。
 「孫子」修得の捷径(早道)は、「孫子」十三篇を直接に講むことであり、生きる存在としての戦闘者たる自分の経験則に照らし合わせ、「孫子」を自分の頭で考えることにある。
 さらにその理論を個々人の場に応用し、個々人の責任において実践・整理・再実践を反復し、その理論を進化させることである。
 とは言え、「孫子」は一人で学ぶには確かに難解の書であるため、少なくともその入口までへの「先達」は必要である。このゆえに、古くから伝えられた「孫子」十三篇に、(敢えて)甚だ簡略な註釈を附し、言わば入門書と成すのである(故に撰びて略解を為る)、と。

 

 「孫子兵法(武岡淳彦監修・佐野寿龍校注 ありあけ出版)」は、この「魏武註孫子」の真意とその軌を一にするものであり「孫子」十三篇(十一家註本で六〇九八字、四百字詰め原稿用紙なら十五枚に過ぎない)を独学者でも直接読めるよう、また、これを己の血肉と化すための素読に便ならしめるべく構成した物である。言わば「孫子兵法の独習者用教本」とも言うべきものである。

 

 一般に、難きを避けて易きに就き勝ちなものであり、ゆえに、自ら主体的に物を考えずに、他人の頭で物を考えたがる傾向があるため、その虚を狙っていつの世も「断章取義」が流行るのである。
 ゆえに本書は、そのような立場の人にとっては、(「断章取義」によるものに比べて)面白みに欠け、分かりにくいものとなるのかも知れない。

 反面、「孫子」を学ぶのに自分の手と足と口を使い、自分の頭で主体的に物を考えていこうとする立場の人にとっては極めてエキサイティングな分かり易い内容となるであろう。

 「孫子」は兵書でありながら、これを体系的に読み解くとき、その理論は即、現代に通ずるという”最古にして最新の稀有な書物“である。
 「孫子」を通じ、事を成すために不可欠な質的三要素、即ち、正鵠を射た理念とは何か、それに基づく戦略とは何か、それを首尾一貫して遂行する指導力とは何か、を体得することができる。

 

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